のらりくろりと、つむり

イラストレーター・イラスト刺繍作家ukamの頭(つむり)の中のおはなし

ナスの焼き浸しとタバコ


夏野菜の値段が下がってくると「あぁ、もうすぐ本格的な夏が来るのだな」と、あの突き刺すような夏の陽射しを思い出す。


暑さがとことん苦手な私にとって、数少ない夏の楽しみは夏野菜だ。
きゅうり、トマト、ゴーヤ、大葉、とうもろこし、ズッキーニ…そしてナス。

ナスが安くなってくると、ナスの焼き浸しを作る。
魚焼きグリルでナスの皮が真っ黒に焦げるまで焼き、冷めたら皮を剥いてだし醤油に漬けておく。

このナスの皮を焼いた時の香ばしい匂いが、今はなき祖父の部屋の匂いを思い出すのだ

夏休みに祖父母の家を訪れると、おしゃべりな母はいつも祖母と話し込んでいた。

今思えば離れて暮らす母娘、久しぶりに会えた喜びからたくさん話したいことがあったのだろう。

当時小学生だった私にとって主婦二人のおしゃべりはとても退屈で、祖父の部屋でひたすら漫画を読んでいた。
寡黙な祖父はいつも自室で油絵を描いていた。


年に何回か国内を周っては気に入った景色を写真におさめ、帰ってきてからその風景を描く。
祖父の部屋には地方の珍しい民芸品がたくさんあったので、訪れる度にそれらが増えていくのを眺めるのも楽しかった。

私が静かに漫画を読んでいると、祖父は私のために買っておいてくれたであろうポテトチップスをごそごそと引き出しから出してくれる。


藤の椅子に座り、穏やかな日差しを浴びながらポテトチップスをパリパリと食べ、漫画を読む…ただそれだけなのに、なんと贅沢な時間だろう。

祖父は時々タバコを吸っていた。
今ならば子供に副流煙など大問題だろうが、当時の私はその匂いを嫌だとも思わなかった。

そのタバコの匂いが、ナスの皮が焦げた時の匂いと似ている気がするのだ。
何かつながりがあるのだろうかと調べてみたところ、どうやらタバコはナス科の植物らしい。

タバコとナスが本当に関係あるのかは分からないが、ナスの焼き浸しを作るたびに祖父の部屋でのんびりと過ごした時間を思い出すのも、私にとっては夏の風物詩だ。

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