のらりくろりと、つむり

イラストレーター・イラスト刺繍作家ukamの頭(つむり)の中のおはなし

昨日と同じカフェ


平日午前9時、駅からほど近いチェーン店のカフェにいた。

店長とおぼしき男性が電話で話しをしている。

「面接の当日になっても来なかった人が3人もいて…はい、はい…そうなんですよ。」

本社からなのだろうか、電話を終えた店長は他の従業員に

「ドタキャンされたらどうしようもないっすね、だってさ。」とボヤいていた。

カウンター越しに話す店長の真向かいに座る私は、思わず目を見開いた。

今時の子はアルバイトの面接を連絡なしにドタキャンするのか。

連絡がない時点でキャンセルですらないけど…と思いながら、なんだか他人事とは思えなかった。

次の日の午後、私はまた同じ場所に行く用事があり、同じカフェを利用した。

店長は見当たらず、従業員の男性2人がレジカウンターを忙しそうに行ったり来たりしている。

コーヒーを注文してゆったりとした時間を過ごしていると、聞き覚えのある声がした。

店長だ。

私の席の斜め前でアルバイトの面接が始まった。

会話の内容がちらほらと聞こえてくるので、個人情報は大丈夫だろうかという私の心配をよそに、店長は面接を続ける。

「カフェで働きたい学生さんも多いけど、うちは駅近だからお昼の時間帯は想像以上に忙しいんです。そのあたりやっていく自信はありますか」というような質問が聞こえてくる。

雇う側も雇われる側もそれぞれの思いがあり、望みがある。

「思っていたよりも忙しいから」と辞められては困るからこその質問なのだろうが、なんとなく店長の誠意を感じたような気がした。

しばらくして面接が終わり、静寂が訪れる。

残ったコーヒーを飲み、私は気がついた。

私が聞き耳を立てていたのではない、店長の声が大きいのだ。

コーヒーを飲み終えて私が店を出ると同時に「ありがとうございます、またお待ちしております。」という声が追いかけてきた。

そうか、店長はこうして毎日のように「いらっしゃいませ」と「ありがとうございます」を大きな声で繰り返しているからこそ、面接のやりとりも聞こえてきたのだろう。

「またお越しください。」ではなく「またお待ちしております。」その挨拶になんとなく心が温まり、どうか良いアルバイトが見つかりますようにと願いつつ、今度から面接はバックヤード等でやってはどうかという思いは拭えなかった。

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