のらりくろりと、つむり

イラストレーター・イラスト刺繍作家ukamの頭(つむり)の中のおはなし

お気に入りと執着


近所の店からお気に入りの塩と煮干しがなくなった。

急に訪れた「お気に入り」との別れ。
悩んだ挙句、棚に並んでいる新しい塩と煮干しを買ってみた。

…悪くない、でもなんだかしっくりこない。

そういえば、気に入っていたマスカラが廃盤になった。
ヘビロテしてる白のワイドパンツ、いつの間にかシミがついていた。

誰もが何かしらの「お気に入り」を持っている。

軽い気持ちで口にする「最近コレ、お気に入りなの♫」」から、スヌーピーに出てくるライナスの毛布のような、それがないと不安になるお気に入り。

ライナスの毛布はお話の中だからずっとなくならない。

でも私の生きているこの世の中は、ずっとこのままでいてほしいと思う物や人がある一方で、常に変化している。
お気に入りがあっさりと目の前から姿を消してしまうのも、よくあることだ。

以前の私は「お気に入り」ではなくもっと「執着」していたように思う。
お気に入りがなくなると、それ自体、あるいはそれに似ているものを追い求めていた。

人間関係もそう。
なんとか心をつなぎ留めたいと思い、振り返ると相手にとって重い言動が多かったかもしれない。

人間関係で悩んでいたある時、父から「人はずっと同じじゃないから」と言われた。

私は心のどこかで「ずっと同じでなければ」と思っていたのかもしれない。

その一言で、私は「ずっと同じ」から「いつか変わっていくかもしれない」と、それはあきらめでも落胆でもなく、どこか温かな優しい気持ちで思えるようになったのだ。

お気に入りはお気に入り、それがなくなってもまた新しい出会いもある。
案外、前に使っていたものが思い出せなくなったり、新しいものに慣れると難なく暮らせるものだ。

それでも疎遠になってしまった人たちを、時々ふとしたきっかけで思い出すことがある。

何回か会って話もしたけど、続かなかった人。
誤解が生じて距離ができてしまった人。
遠くへ引っ越してしまい会うことができなくなってしまった人。

だからといってその人たちと過ごし、笑顔の増えた自分や楽しかった時間を否定してはならない。

そんな時間も、今の自分が作られた一部なのだから。

お気に入りの物も人も変化する、その上で「執着」しすぎないように「お気に入り」をたくさん増やしてウキウキな毎日を過ごしていけたらな、と心から思うようになった。

と言いつつも、やっぱりあの煮干しと塩がいいんだよな、とネットの通販ページを見る私。

これは「お気に入り」か「執着」か。

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