のらりくろりと、つむり

イラストレーター・イラスト刺繍作家ukamの頭(つむり)の中のおはなし

左手のやけど


オーブンで使えるフライパンを買ってから初めてのグリルハンバーグ。
熱々のフラインパンをミトンで取り出し、お皿に盛り付ける。

残った肉汁でソースを作ろうと、ミトンを忘れてフライパンの柄を握ってしまった。

その瞬間、熱さと驚きで声をあげた。

こんな広範囲のやけどは初めてだ。

AIに対処法を聞いてすぐに流水を当てる。
緊急事態だというのに、数分も経たないうちに水道代を気にしてしまう自分がイヤになる。
そこでボウルに冷水を張って、手のひらをつけておく方法に切り替えることにした。

猛烈な痛さとショックで頭がいっぱいになりながら、冷めたハンバーグを右手だけで食べる。
痛さとは裏腹に今まで作った中でいちばん美味しいハンバーグだった。

30分ほどしてボウルから手を出すと、左手首までキンキンに冷えている。
雪山はこんな風に人の体温を、身体の末端からじわじわと奪ってゆくのだろうかと考えたらゾッとした。

入浴はビニール手袋をして手首をゴムで留めるが、ジンジンとした痛さはまだ残っている。
洗髪も洗顔も、ここは右手単独で頑張ってもらう。
今日の右手は大忙しだ。

湯船に浸かり、ビニール手袋をした左手だけを出す。
左手はパーの状態なので手のひらを手前に向けると、左手だけがいわゆる『これから手術をします』状態でちょっとおもしろい。
かといって反対側に向けると、お城のバルコニーから民衆に手を振っている偉い人みたいだ。お城じゃなくてバスタブだけど。

こうしたどうでもいい妄想に走りくすっとできるのは、痛みが収まってきた証拠かもしれない。

やけどの衝撃でなんとなく左手全部が痛いと思っていたが、よくよく観察すると痛いのは手のひらと数本の指の第一関節くらいだと気が付いた。

人は何かを制限された時、新たな発見をする事がある。
数本の指と利き手が使えたことで「意外となんとかなるもんだな」と乗り越えた達成感により、ジンジンとした痛みも治まってきたように思えた。

早く治ることを願いつつ、明日は皮膚科に行こうと決めた。

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